耳管開放症とは

そもそも、耳管(じかん)とは....

まず、耳は3つに分けられます。
①耳から鼓膜までを「外耳」(がいじ)。
②鼓膜から内部を「中耳」(ちゅうじ)。
③三半規管やカタツムリのような部分が「内耳」(ないじ)。
その中で、耳管は分類的には中耳に入ります。
普通の耳管は、ほどよく柔らかく閉じており、開閉の機能があるのが望ましいと言えます。
耳管の長さは大人の標準で約3.5cmです。
(耳管鼓室口から耳管咽頭口まで)

耳管断面

耳管を断面に切り取ると、耳管腔内の下部ほどに多くの線毛細胞が存在し、上部ほどに線毛細胞は少なくなります。
すなわち、耳管は上部と下部で違った構造になっているのです。
線毛細胞の多い耳管下部は中耳側から流れてくる分泌物を排泄する役目を担います。
線毛細胞の少ない耳管上部は換気を行い、中耳内と外界との圧の調整に深くかかわっています。

耳管の機能

①換気(調圧)
新幹線でトンネルに入った時に耳が詰まる感じがすると思います。
これは、気圧の変化により中耳腔(ちゅうじくう)=鼓室(こしつ)が陰圧になっている状態です。
その詰まった状態を耳閉塞感(じへいそくかん)または耳閉感(じへいかん)と言います。
この時、鼓膜は凹んでいます。
そうなった時に皆さんはどうされますか?きっと唾をゴックンとすれば、解消されると思います。
同時に、凹んでいた鼓膜も元の形に戻ります。
それは、耳管が正常に働いているからです。

②排泄
耳管の中は粘膜で覆われており、かつ分泌されています。
中耳(耳管含む)の異物を外に出す目的が主です。
耳管咽頭口(じかんいんとうこう)、鼻や喉に繋がっています。すなわち、鼻水などとなって排泄されるのです。
風邪を引くと過剰に分泌されてしまうこともあります。
そこで、もし、耳管が閉じたままであれば、中耳腔に粘膜液が溜まりまくって「滲出性中耳炎」という病気になります。
鼓膜は凹んで、難聴になってしまいます。
耳管の中には線毛(せんもう)があり、流れは耳管咽頭側に向いています。
あくびや、嚥下(えんげ)=飲み込み の際に一気に耳管咽頭側に排泄されます。

③防御
これは、外からの侵入者を防ぐ目的です。
誰でも子供の頃に、中耳炎を患った経験をお持ちであると思います。
大人の耳管は、3.5cm程あります。
しかし子供の耳管はまだ未発達で短く、そのため風邪を引いた時などに様々な細菌の侵入を受けてしまい、これが原因で中耳炎となるのです。
外敵からの侵入を防ぐために、通常は耳管が閉じているわけです。

耳管開放症になると・・・

さて一般的には、上記の3つで説明されていますが、この「防御」には、もうひとつの敵からの防御があります。
それは自分自身です。
「自分自身の声」や「呼吸音を聞いてしまう」..前者を「自声強聴」(じせいきょうちょう)後者を「呼吸音聴取」(こきゅうおんちょうしゅ)「呼吸性耳鳴り」(こきゅうせいみみなり)ともと言います。
そしてこの2つが、開放症患者にとっての最大の苦痛です。
正常ならば聞こえるはずの無い「自分の声」や「自分の呼吸音」が聞こえてしまいます。

耳管の開放により、鼻呼吸をすれば、耳管咽頭側と鼓膜までが開通してしまいます。(空気が行き来する)
鼓膜も呼吸に連動してペコペコ動きます。
うっとおしいとしか言いようがありません。
呼吸するたびに、 ゴォーゴォーとジャンボジェット機が頭の真上を通過するような、あるいは共鳴の激しい狭い部屋で、大きな声でしゃべったりするのと同じような感覚です。
これは例えであって、これを実際に耳(頭)の中で聞くと言う際の辛さは、なかなか文字では表現ができません。

とにかく、どうしゃべったら良いのか分らない...大きな声でしゃべればしゃべるほど辛いです。
普通にしゃべっていても辛いので、小声になります。
しかしそうする事によって、息苦しさを感じる方もおられます。
また、相手に対しても、しゃべっている自分自身の声がフィードバック出来ずに、どの程度でしゃべれば相手に理解されるのかが分りません。
寝ていたり、下を向いたりすると、一時的に楽になります。
これは、この状態になると生理的に耳管が腫れるためです。
耳管が腫れる=症状が緩和される。
そのため、患者は下向き加減に話してしまうようになり、「消極的に話す・自信の無い話し方」のように誤解されます。

通常の耳管と開放耳管

通常の耳管は全て閉じているのでしょうか?
通常の耳管は耳管鼓室口付近の一部と耳管咽頭口付近は、わずかに開いているものの、耳管の大部分を占める耳管軟骨部は普段は閉じています。
すなわちペッタンコです。

まず、中耳腔から始る耳管鼓室口は太いが、急激に狭くなります(ラッパのように)。
耳管鼓室口から40%が「耳管骨部」で、硬い骨に囲まれており「耳管峡部(最も細い部分)」において、最も骨に囲まれます。
ここの断面積は平均で0.94mm2だそうです。
ただ、耳管骨部と言っても骨しかないのではなく、当然、線毛細胞(せんもうさいぼう)も存在し、中耳腔と同じく粘骨膜で覆われています。
また、耳管骨部の上には鼓膜から繋がっている鼓膜張筋(こまくちょうきん)が走行しており、聴こえのシステム異常を訴える患者の多くに、この鼓膜張筋と耳管開放症との関与が推察されます。
特に鼓室咽頭口付近においては耳管と特に密接に繋がっています。

耳管峡部から耳管咽頭口までが「耳管軟骨部」になり、耳管全体の60%を占めています。
耳管峡部より耳管咽頭口にかけて緩やかにラッパのように広がって行きます。
耳管咽頭口では、もうラッパの口のように大きく広がっています。

耳管軟骨部の外側には口蓋帆張筋(こうがいはんちょうきん)が付着しており、嚥下や開口、発声により口蓋帆張筋が収縮し、耳管軟骨部を開放させます。(耳管が開放する)
さらに耳管の下には口蓋帆挙筋という筋肉も存在しており、口蓋帆張筋に準じて開放に関与しています。

通常の場合、嚥下等の際、約0.3秒間、耳管全域が開放します。
そして閉じるのでありますが、耳管開放症を発症している場合は必要以上に開放し、閉じる時間が長くなります。
重症になるほどに、この開く断面積は広くなり、閉じるまでに時間を要し、患者を苦しめることになるわけです。
すなわち、自声強聴、呼吸音聴取、耳閉塞感などの症状が生じます。
重症者に到っては閉じない人もいます。

耳管軟骨部の横下には「オストマン脂肪体」と呼ばれる脂肪体(支持組織)も存在し、この脂肪体の減少(痩せ)が耳管開放にも大きく関与しています。
すなわち、縁の下の力持ち的存在である支持組織が、機能を発揮するだけの支持力(耳管を持ち上げて閉じさせる働き)を失ってしまい開放時間を長くしたり、開放耳管断面積を大きくしてしまいます。
また、耳管を囲む耳管軟骨自体の硬直も、穏やかな、柔らかい耳管の開閉の機能を妨げ、極端な開閉を行うと推定されます。
これも、開放時間を長くしたり、開放耳管断面積を大きくしてしまうことにも関与しているようです。
なお、一般的に耳管開放症として開放が顕著であるのは、この耳管軟骨部です。(重症者においてはこの限りではない)

耳管内の流れ

耳管腔内の線毛運動は中耳側(鼓室咽頭口側)から耳管咽頭口側への一方弁です。
また空気も中耳側(鼓室咽頭口側)から耳管咽頭口側へは流れ易いが、その逆には流れにくいと言う一方弁のような性質があります。
これらは鼻水や鼻汁に伴う細菌の侵入を防ぐ目的ではありますが、これが逆に災いしてしまうのが「不完全型の耳管開放症=耳管閉鎖(機能)不全」であろうと思われます。
鼓膜所見では鼓膜の陥没が見受けられることから「一見すると耳管狭窄症であるが、実は耳管は開放している」と言う診断の厄介な耳管開放症の一種です。
このタイプの耳管開放症患者は特に鼻すすりは厳禁です。

耳管開放症と難聴

開放症における難聴の解釈はいくつかあります。
いずれも低音域です。
また、難聴というよりは聞きづらいと言う方が適切であると言えます。
①自声強調や呼吸音聴取の音が邪魔をして 聞きづらい。
②鼓膜の過振動により異常な波動が伝導系統に伝わり聞きづらい。
③鼓膜の過振動のため中耳腔の中での伝導系統 において、卵円窓経由と正円窓経由がお互いに干渉し合い聞きづらくなる。
などです。